EPSの計算方法を理解しよう。3分で学ぶ財務報告を活用した株式選択の核心ロジック

投資者が財務報告書を読む際に最もよく目にする指標の一つがEPS(1株当たり利益)ですが、多くの人は実はこの数字の背後にある意味を十分に理解していません。簡単に言えば、一株当たり利益(EPS)は、会社の普通株1株が生み出す利益の額を反映しており、企業の収益性を評価する最も直接的な財務指標です。

では、EPSはどう計算するのか?なぜ基本EPSと希釈EPSがあるのか?単純にEPSだけで良い株を選べるのか?この記事では実践的な観点から詳しく解説します。

EPSの真の意味:企業価値を測る重要な窓口

EPSの英語全称はEarnings per shareで、その字面通りに理解すれば、会社の総利益を株数で割ったものです。もしある会社のEPSが高ければ高いほど、投資者は1株を持つごとにより多くの利益を得られることになります。

投資者にとって、EPSは「この株は買う価値があるかどうか」を判断する重要な参考材料です。競合他社が並んでいる場合、EPSはどちらの会社の収益効率が高いかを素早く比較するのに役立ちます。例えばApple(AAPL.US)の場合、2019年から2024年にかけてEPSは明らかに上昇傾向を示しており、これはAppleの収益能力が継続的に強化されていることを反映しています。

EPSの計算方法:財務報告書の3つの重要数字

EPSの計算式は一見シンプルです:

EPS = (純利益 - 優先株配当)÷ 発行済普通株式数

しかし、実際にはこの3つの数字をどこから見つけるかが難しいポイントです。

純利益: これは会社の総収益からすべてのコストと費用を差し引いた最終的な利益で、通常は損益計算書の最下行に記載されています。

優先株配当: 優先株の保有者に支払われる固定配当で、これも損益計算書に記載されています。

発行済普通株式数: 既に発行されているが自己株買い等で回収されていない普通株の総数です。この数字は貸借対照表の株主資本の部分で確認できます。

具体例として、アメリカ銀行(BAC.US)の2022年の財務報告を見てみましょう:

  • 純利益:$27,528百万
  • 優先株配当:$1,513百万
  • 加重平均発行済株式数:8,113.7百万株

式に代入すると: EPS = ($27,528 - $1,513) ÷ 8,113.7 = $3.21

実際には、現代の財務システムは非常に洗練されており、会社は計算済みのEPSを直接財務報告書に表示していますので、投資者は手計算する必要はありません。ただし、EPSの計算過程を理解しておくことで、この指標の本質をより深く理解できます。

最新のEPSを財務報告書から素早く確認する方法

方法1:公式の財務報告書を直接確認(最も正確)

例:Appleの場合、米国証券取引委員会(sec.gov)のサイトにアクセスし、「10-K」(年次報告書)や「10-Q」(四半期報告書)を検索します。該当書類の「Consolidated Statements of Operations」(連結損益計算書)セクションで、「Earnings per share」の項目を見ればOKです。

方法2:金融情報サイトを利用(便利だが遅延の可能性あり)

SeekingAlphaやYahoo Financeなどのサイトでは無料でEPSを確認できます。ただし、これらのサイトでは基本EPS、希釈EPS、予想EPSなど複数の種類が提供されている場合があるため、自分が必要とするタイプを選ぶ必要があります。

基本EPSと希釈EPS:リスクとチャンスの理解

財務報告書には、次の2種類のEPSが記載されています。

基本EPS(Basic EPS) = (純利益 - 優先株配当)÷ 現在の発行済普通株式数

希釈EPS(Diluted EPS) = (純利益 - 優先株配当)÷ (現在の発行済普通株式数 + 転換可能証券等の希釈効果を持つ証券の数)

両者の違いは分母の数字にあります。希釈EPSは、会社が所有するすべての転換可能証券(従業員ストックオプション、転換社債、制限付き株式など)をすべて普通株に転換した場合を想定して計算されるため、分母が大きくなり、結果としてEPSは小さくなります。

例としてコカ・コーラ(KO.US)を考えましょう。同社の転換可能証券は2200万株あります。これらがすべて普通株に転換された場合、EPSは「希釈」されることになります。

なぜ投資者はこの2つの指標を両方見る必要があるのか? 基本EPSは現時点の実際の収益力を反映していますが、希釈EPSは将来の株式希薄化リスクを警告します。両者の差が大きい場合、多くのストックオプションや転換証券を発行している可能性があり、将来の株主の利益に圧力をかけることになります。

EPSと株価の実際の関係:幻想に惑わされない

直感的には、EPSが高いほど株価も高くなると考えがちですが、実際はもっと複雑です。

堅調なEPSは投資家の信頼を高め、株価を押し上げ、さらに買いを呼び込み、良いサイクルを形成します。しかし、市場の予想が実際の数字を左右する点が重要です。

例:ある企業のEPSが前年同期比10%増加したが、市場の予想は20%増だった場合、株価は下落することもあります。逆に、EPSが下がったが予想より良かった場合は株価が上昇することもあります。これが、「良い数字」が必ずしも株価上昇につながらない理由です。

EPSとDPSの補完的関係

一株当たり配当(DPS)は、会社が利益の中から株主に分配する部分を示し、EPSは会社が稼ぎ出した利益の総額を示します。

この2つの指標は、会社の健全性を異なる角度から映し出します:

  • EPSが高い=収益力が強い
  • DPSが高い=株主と利益を積極的に共有している

ただし、ここにはトレードオフもあります:高配当は再投資の余裕を減らす。多くの利益を配当に回す企業は、成長や研究開発に使える資金が少なくなり、長期的なEPSの伸びが鈍る可能性があります。これが、ハイテク企業が一般的に配当を少なくし、利益を再投資して長期成長を狙う理由です。

EPSを使った銘柄選択の正しい姿勢:数字だけに頼らない

多くの投資家が犯す最大の誤りは、単一のEPS数字に惑わされることです。

実例:半導体業界のNVIDIA(NVDA.US)、Qualcomm(QCOM.US)、AMD(AMD.US)の2018-2023年のパフォーマンスを比較します。2020年以降、QualcommのEPSは他の2社を大きく上回っていました。単純にEPSだけで選ぶと、Qualcommを買いたくなるかもしれません。しかし、その間の株価リターンを見ると、NVIDIAは251%、Qualcommは69%にとどまっています。

この教訓は明白です: EPSはあくまで参考材料であり、絶対的な判断材料ではありません。

銘柄選びの際に考慮すべきポイントは: 1. 長期的なEPSのトレンド
連続して5年以上EPSが増加している企業は、収益力が実質的に向上している証拠です。逆に、EPSが乱高下したり下落したりしている場合はリスクが高まります。

2. 同業他社との比較
PER(株価収益率=株価 ÷ EPS)を使って比較します。同じ業界内でPERが低いほど割安と考えられますが、ただし、悪材料がある場合もあるため注意が必要です。

3. EPSの背後にある実態
EPSの上昇が、実際の事業成長によるものか、一時的な特別利益や株式買い戻しによるものかを見極める必要があります。例えば、レストランチェーンが不動産を売却して一時的に巨額の利益を計上した場合、その利益は持続しません。賢明な投資家はこうした特殊項目を除外し、継続的な事業利益だけを見るべきです。

実践的な銘柄選択のフレームワーク:EPSの正しい使い方

第一段階:長期的にEPSが増加している企業を選ぶ
継続的なEPSの上昇は、実質的なビジネスの競争力向上を示します。

第二段階:PERを計算し、同業他社と比較
PERが低いほど割安と判断できます。ただし、業界平均と比較し、過剰な割高感がないかも確認。

第三段階:EPSの成長の質を分析
財務諸表を深掘りし、利益増加の要因を確認します。核心事業の成長か、一時的な特殊利益か、流通株の増減も重要です。

第四段階:他の指標と併用して総合判断

  • キャッシュフロー:EPSが良くてもキャッシュフローが乏しいと問題です。
  • 負債水準:高収益でも負債が多いとリスク増。
  • 業界の将来性:成長産業か、衰退産業か。
  • 競争優位性:業界内でリーダーか、遅れをとっているか。

なぜEPSは万能ではないのか

財務報告書のどの指標も、投資判断の決定打にはなり得ません。EPSの限界は以下の通りです。

操作可能性: 株式買い戻しや特殊項目の調整により、実体経営を伴わずにEPSを操作できる。

質の低い利益: EPSは利益の質を区別しません。一時的な資産売却益と、継続的な事業利益は同じEPSに見えます。

持続性の欠如: 今年EPSが高くても、競争力がなければ翌年には崩壊する可能性も。

キャッシュ状況の無視: 利益が高くても、売掛金が膨らんでいると実際のキャッシュは乏しい場合もあります。

したがって、EPSは投資判断の入り口としては有用ですが、最終的な判断には他の要素も併せて検討すべきです。EPSのトレンドが良好であれば、次に企業のビジネスモデルや競争優位性、経営陣の能力などを深く調査する必要があります。

よくある質問

Q:EPSはどれくらい良い数字なのか?
A:絶対的な基準はありません。重要なのは長期的なトレンドと同業他社との比較です。例えば、ある企業のEPSが$1から$5に安定的に増加している場合は優良です。一方、EPSが一定で変動が大きい企業はリスクが高いです。
また、業界によって平均値も異なります。テクノロジー企業のEPSは金融業界より低いこともあります。

Q:EPSは株価予測に使えるのか?
A:参考にはなります。ウォール街のアナリストは予想利益をもとに将来のEPSを推計し、市場はその予想値に反応します。ただし、予想自体も変動するため、EPS予測はあくまで参考です。

Q:基本EPSと希釈EPSはどちらを見るべきか?
A:両方見る必要があります。基本EPSは現時点の収益力を示し、希釈EPSは将来のリスク(株式希薄化)を示します。両者に大きな差がある場合は注意が必要です。

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